2008年03月04日

くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)について

 くも膜下出血は動脈瘤の破裂に伴う頭蓋内の出血性疾患で、脳血管疾患のなかでも若年に多く、他の脳血管疾患に比べ記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などのいわゆる高次脳機能障害をきたしやすい。またこれらの症状は急性期以降に顕在化することもあり、社会参加場面で問題となりやすい点は脳外傷に伴う場合と類似している。
 急性期の合併症である脳血管攣縮以外にも、水頭症やてんかん等の併発により、急性期以降であっても症状の増悪を認めることがある。そのため、急性期から適切な評価を開始するとともに、その後も社会参加に向けて、継続して適宜介入の上、評価の継続、認知リハビリテーション、薬物療法、環境設定、家族指導、各種制度導入が求められる。
 予後として社会復帰困難となるケースは依然多くある。社会復帰の阻害因子として、遷延性意識障害や身体機能障害に加え、最近では高次脳機能障害に伴う影響も注目されるようになってきた。しかし、救命と最小限の身体機能障害改善を主目的にされる急性期治療の場においては、高次脳機能障害に伴う社会参加への影響を見過ごされてしまうこともあり、実際の生活や社会参加に至った状況で問題が顕在化され、苦慮することも少なくない。

Type 1:急性解離性動脈瘤(急性動脈解離)
Type 2:非血栓化紡錘状動脈瘤
Type 3:慢性解離性動脈瘤
Type 4:嚢状動脈瘤

◇合併症
・正常圧水頭症:意識、覚醒度に注意し、発動性低下や尿失禁、歩行障害(主として、歩行開始困難や重心後方偏位)に関してその変化を十分みておく。水頭症が発見されれば、L-Pシャント術などが施行される。術後は頭部を高い位置に置いておくためにも、起座・起立練習を行うことは意義がある。
・交通性水頭症:脳底槽や脳表のくも膜下腔広範囲に貯留した血液が脳脊髄液の流れと吸収をブロックして起こる水頭症である。急性期を過ぎて頭痛・嘔吐や意識障害で発症することが多い。特に慢性期になって正常圧水頭症として発症する場合は元気だった人が認知症、歩行障害、尿失禁などで発症する。脳室腹腔、または脊髄腔腹腔シャント手術が有効である。

・脳血管攣縮:1951年、Ecker and Riemenschneiderによて初めて脳血管撮影で指摘された。血管攣縮は脳以外の血管にもさまざまな血管収縮物質の放出によって起こる現象であるが、一般的には即時性一過性である。これに対し、くも膜下出血後に起こる脳血管攣縮は、遅発性持続性で、多くは出血後2週間以内に起き、いつ発生するか予測困難で、いったん発症すると有効な治療法がなく、攣縮の進行によって二次的に脳梗塞を来たして片麻痺、失語などの後遺症を残したり、場合によっては死に至る病態であり、かつては症候性脳血管攣縮はくも膜下出血患者の半数近くに発生した。
 脳血管攣縮の病態として、炎症反応などによる血管内皮下の繊維化、平滑筋細胞の壊死や増殖、内弾性板の皺縮(「しゅうしゅく」と読むべきか)などの器質的変化が指摘されている。また最近では、創傷治癒過程にみられる非平滑筋細胞由来の器質的狭窄の関与も示唆されている。脳血管攣縮によって生じる脳梗塞は、血管狭窄による脳血流の低下だけでなく、攣縮期では血管狭窄、内皮障害によって血小板血栓の形成が促進され、血小板血栓のシャワーリングによって最終的に多発性脳梗塞が惹起されるとも考えられる。
 臨床の場で一番重要なのは、やはり神経症状を頻回に見ることである。特に意識レベルの良い患者さんでは、ちょっとした意識レベルの変動や軽度の麻痺、失語をとらえれば、攣縮の早期発見につながり、ひいては脳梗塞の予防となる。攣縮期の患者はぎりぎりのところで脳循環が保たれているのであり、ちょっとした脱水、低血圧によって容易に血管攣縮は進行し、数時間後には不可逆的脳梗塞に至ることをわきまえるべきであり、早め早めの治療と、攣縮期を過ぎるまで十分な管理を行うことで、血管攣縮の発生を低下させることが可能である。しかしながら現時点でもなお、血管攣縮の詳細な発生機序が明らかになっておらず、いまだ脳血管攣縮による二次的脳梗塞を完全に予測し、予防することはできていない。

■血圧管理:
高血圧治療ガイドラインでは、脳梗塞急性期では収縮期血圧220mmHg、または平均血圧130mmHg以上の場合に、脳出血の場合それよりも低いレベルから降圧を開始することを推奨している。SAHの場合、急性期の再出血は高率であり、その予後は不良であるため、急性期の血管管理は極めて重要である。また、亜急性期に発生する脳血管攣縮も考慮しなければならず、簡潔で明確なガイドライン作成は困難であろう。
再出血は発症直後から6時間以内の超急性期に最も多くみられる。再出血はくも膜下出血の予後を著しく低下させる。再出血の予防のためには血圧は発症前より20%程度低めにコントロールする。発症前の血圧がわからないときには、120/90mmHgを目標とする。しかしこの降圧目標についても異論が多い。動脈瘤のクリッピングが終わったあとでは、脳血管攣縮による脳梗塞を予防するため急性期には降圧剤は使わない。
後部の視床下部が刺激されて、ノルアドレナリン、レニンが放出されるために、血圧上昇が起こるといわれる。最初の2日間は血管攣縮による脳梗塞の危険はないので、160mmHg以下に保つように降圧剤を投与する。酒井らは積極的降圧、収縮期血圧を100〜120mmHgに維持することを勧めている。
・アンジオテンシンII受容体拮抗薬:咳、発疹などが少ない。排尿障害に対する効果も持ち併せているが、起立性低血圧に注意が必要である。
・ドブトレックス:心筋収縮力増加++++ 心拍数増加+ 不整脈誘発+ 末梢血管収縮± 末梢血管拡張++ 腎血管拡張‐ 内因性ノルエピネフリン遊出‐
・ドパミン:心筋収縮力増加++++ 心拍数増加++ 不整脈誘発++ 末梢血管収縮−〜++++ 末梢血管拡張++ 腎血管拡張+ 内因性ノルエピネフリン遊出+
・イソプロテレノール:心筋収縮力増加++++ 心拍数増加++++ 不整脈誘発++++ 末梢血管収縮− 末梢血管拡張++++ 腎血管拡張‐ 内因性ノルエピネフリン遊出‐
・ノルエプネフリン:心筋収縮力増加++++ 心拍数増加+ 不整脈誘発++++ 末梢血管収縮++++ 末梢血管拡張− 腎血管拡張‐

■代表的な高次脳機能障害と対応
 SAHは破裂動脈や重症度、合併症の有無等で様々な症状を呈するが、そのなかで日常生活や社会参加場面で問題となる障害として、前交通動脈瘤破裂や動脈瘤クリッピング術による侵襲による前頭葉障害が原因とされる記憶障害、注意障害、遂行機能障害、発動性低下、脱抑制に伴う社会的行動障害が挙げられる。特に前頭葉症候群の1つである脱抑制に伴う易怒性などは、急性期入院時より認め、病棟生活での適応が困難となり、しばしば薬物療法による鎮静が行われる。また発動性の低下は、注意障害、記憶障害、遂行機能障害にも起因し、退院後の生活での介護負担感につながる。ただし、これらの発症頻度や傾向などに言及した報告は少ない。
 対応については、基本的には他の原因に伴う高次脳機能障害と同様に、神経心理学的検査ならびに、行動観察等から評価を実施し、その結果をもとに認知機能訓練が実施される。アプローチとしては、脳外傷に準じて対応することも少なくない。

・下垂体・視床下部系の虚血による自律神経障害
・健忘症候群:遠隔記憶や瞬時記憶は障害されず、記銘力障害が主体となり、発病後に生じたことを覚えることができない前向き健忘や見当識障害、発病以前に覚えた情報を再生できなくなる後向き健忘などを呈する。

■急性期のリハビリテーション
1.意識障害
覚醒水準に関して、Japan Coma Scaleなどを利用し評価しておく。発動性の変化や外的刺激に対する反応をみて脳圧亢進、血腫拡大、再発、急性水頭症の発現に注意する。術後、一過性にせん妄などの意識変容が出現することもあるので、持続的なdementiaとの鑑別が必要である。短絡術後の過剰流量による低脳圧症状にも注意する。
2.頭蓋内圧
 数値とすれば正常範囲の10〜15mmHgが目処。恒常的に25mmHgを超えるようであれば中止。なお、咳き込みや気管内吸引等で一時的に25mmHg以上に上昇しても、30〜1分以内に戻れば脳のコンプライアンスとしては、トレーニング上問題ない。頭蓋内圧は後述の脳灌流圧や全身血圧とともに考慮して行う。
3.脳灌流圧
 脳灌流圧は(平均動脈圧‐頭蓋内圧)で算出される。60〜160mmHgがめど。最低でも70mmHg程度に保持するのが望ましい。トレーニングでは、頭蓋内圧を必要以上に上昇させる体位や疼痛発生は控える。
4.血圧管理
 術直後は血管が脆弱なため再出血しやすい。そのため、血圧変動のチェックは厳密に行う。上限も低く設定し、収縮期150mmHg程度に留めておく。運動開始後の変動幅も上昇30mmHgを目処にする。破裂脳動脈瘤の術後では、脳血管攣縮予防のためやや高めに設定する。詳細な数値は別途検討する。
5.動脈血酸素分圧・酸素飽和度
 動脈血酸素分圧(PaO2)は最低でも60〜100mmHg程度を確保しておくが、急性期では予期せぬ事態を防ぐため100〜150mmHg以上をめどとする。酸素飽和度(SpO2)は95〜98%以上がめど。しかし、PaO2が30〜100mmHgの範囲にないとSpO2の感度は不良なので注意が必要。なお、動脈血炭素ガス分圧(PaO2)は35〜40mmHgを維持する。
6.頭位
脳室ドレナージなどでは、頭部の位置を上げるため、ベッド上の角度で調節するkとがあり注意が必要。水平位から外耳孔の位置が10〜20cmの高さにくるよう上げて行う。座位保持の際は、一時閉鎖して行うことも可能。
7.外減圧術
 重症な脳浮腫患者への外科的治療で、骨弁を外しているため、側臥位などポジショニング時圧迫を回避、起居・移動動作トレーニング時はヘルメット等も考慮する。なお、頚部や体幹は圧迫回避のため、一方向を長時間向いていることが多く、疼痛や筋短縮等に注意する。
8.深部静脈血栓(症)
 予防として不動性や脱水症状に注意し、術直後は弾性ストッキング装用などを行う。運動自体は重要だが、既に形成していた場合、急な運動で肺血栓塞栓の可能性がある。死亡など重篤な場合もあり最注意する。熱感、発赤、疼痛、浮腫等の局所症状を見逃さないよう観察しておく。通常薬物療法を行うが、場合により下大静脈フィルターを挿入しトレーニングを実行する。
9.痙攣発作(全身・焦点発作など)
 痙攣は脳卒中では少なくない合併症で、術後に多い(術後〜10日;特に2,3日)。対処として薬物投与、酸素吸入などを行うが、トレーニング中は速効性のジアゼパム投与がすぐできるよう、事前に準備しておくと良い。前兆として上肢・顔面のぴくつき、言語性保続、視野の違和感などに注意する。脳波所見などの情報収集および提供も行っておく必要がある。
ジアゼパム:副作用:依存形成、重症筋無力症に禁忌
10.発熱
 術後は、発熱や脳温上昇を防ぐためクーリングを実行していることが多い。体温としては37.5℃未満を基準にする。38.5℃未満までは、バイタル等全身状態をみてベッド上で軽いトレーニングを行う。それ以上は中止。
11.呼吸管理
 前述の脳灌流圧や頭蓋内圧、動脈血酸素分圧・炭酸ガス分圧、酸素飽和度に注意し呼吸管理を行うことになる。排痰困難がある場合、体位排痰法、呼吸理学療法などで対応する。しかし、24時間管理が必要な場合、看護師との協力体制が重要。
12.ベッド環境
 ベッド周囲の環境を整えることは、アクシデントを回避するうえでも重要である。モニター、コード、各種チューブ、寝具、ワゴンなど種々の物品がひしめく。ここでは術後急性期で運動の際、特に注意が必要なチューブ管理について述べる。
1)チューブ管理・整理について
 手術直後は点滴などをはじめ、各種チューブ類が患者を取り巻くように存在し、数も多い。見た目からスパゲティ症候群とも言われ、チューブ閉塞や三方活栓からの外れがインシデントなどに数えられる。よって、チューブ類についてはその重要度を認識し、生命維持系、治療系、活動観察系に分けて整理する。そこから優先順位を考慮する。生命維持系、治療系は末梢静脈ライン管理で、看護部門が主体に扱っており、これらの操作は看護職と協業して行うべきである。
 また、点滴についてベッドアップしたり、端座位・立位になると、滴下スピードが変わるので注意する。輸液ポンプやシリンジポンプは、10ml/hといったごく少量の点滴量が多いので、滴下しているかの確認は十分時間をかけて観察する。モニター上の数値にごまかされないよう注意。シリンダポンプはバッテリー式の場合、歩行などで携帯できる。よって、トレーニング実行の際、充電量に気をつけるようにする。
2)脳槽・脳室ドレナージ等の扱い
 脳槽や脳室ドレナージ等を留置している場合、本格的動作指導は血清髄液の排出治療が終わり、ドレナージが抜けるのをめどにする。しかし、関節可動域維持など軽運動は実施可能である。またトレーニングをする際も、チューブを一時閉鎖することで可能となる。サイフォン部までのルートを閉鎖する場合、頭部を挙上させると、過剰排出されるので注意が必要である。なお、脳実質と繋がっているため、感染や脳炎に注意する。

・異所性骨化:循環障害や筋肉、関節の不動状態などを基礎にして、局所の組織変化を生じ、これに骨化が発生するという報告が多い。また、頭部外傷に伴った骨折の患者では、その治癒が早いことは良く知られているが、Bidnerらは頭部外傷患者の血液中では骨が細胞に対する成長因子の活性が増加していることを報告し、そこ働く液性のメカニズムを示唆している。おそらくは、脳血管疾患や意識障害のある患者における異所性骨化も、局所的な条件をもとに、このメカニズムが働くことにより発症するものであろう。意識障害の合併症として発症した場合、切除時には意識は回復しており、術後の自動運動も可能である。徐々に愛護的な関節可動域訓練を行うことにより、筋、関節の不動状態や循環状態も改善し、再発しやすい基盤が消失することとなる。
・低Na血症




NHK、臨床試験中の脳梗塞・心筋梗塞治療の「再生医療」をドキュメント
矢澤哲 2007/11/03
ttp://journal.mycom.co.jp/news/2007/11/03/001/index.html
日本放送協会(以下、NHK)は5日、NHK総合テレビ22:00〜よりNHKスペシャル「眠れる再生力を呼びさませ〜脳梗塞・心筋梗塞治療への挑戦〜」を放映する。

同番組は、人に秘められた再生力を引き出し、脳梗塞や心筋梗塞を治療しようという取り組みを紹介した49分のドキュメンタリー番組。人には、イモリなど両生類のような失った組織を再生できるほど高い能力はないと考えられていた。しかし最近の研究で、人間にも秘めた「再生力」があることが分かってきたという。この再生力を使って、今まで困難だと思われていた脳梗塞や心筋梗塞で傷ついた細胞を再生させる臨床試験が行われている。そういった現場を同番組では取材する。

番組では2007年1月、札幌医科大学付属病院脳神経外科の宝金清博教授が責任者となって始まった脳梗塞の臨床試験を取材。臨床試験は、患者自身の骨髄にある「骨髄幹細胞」を取り出して培養させ、患者の血管へ注入するというもの。幹細胞の持つ再生力を発揮させ、脳梗塞によって傷ついた脳神経を再生させるという試みだ。

番組の一部。医師が手にしているのは、患者自身の骨髄にある「骨髄幹細胞」を取り出して培養させたものだという

同番組制作チームでは、この臨床試験を8カ月に渡って密着取材し、従来では考えられない脳梗塞患者の回復ぶりを紹介する。さらに2004年4月より、ドイツで行われている心筋梗塞患者に対する再生治療の臨床試験にも迫る。

ドイツでの臨床試験の様子

2007年10月26日に学会で最初の報告なされた段階で、札幌医科大学が行う臨床試験への参加人数は8名。その全員に何らかの変化が見られるという。「骨髄幹細胞を使った再生医療の大きな特徴は、自分自身の細胞を体内に戻すので、拒絶反応の問題や他人の受精卵を使うといった倫理的問題がないことです。まだ臨床試験の段階ですが、多くの人に知ってもらうことで研究を加速させ、1日も早く脳梗塞や心筋梗塞の新たな治療方法が確立されることを願い、番組を制作しました」(制作局科学・環境番組チーフプロデューサー:松本俊博氏)。日本やドイツにおける再生医療の現在と、人体に秘められている再生力の可能性について知ることのできる内容となっている。

posted by     at 15:43| Comment(0) | TrackBack(0) | IR | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする